2021年4月からアメリカで開始予定の「リモートID」制度とは何か?
近い将来、ドローンが街じゅうを飛び回り、荷物の運搬、工事現場や屋根裏の点検、更には気象や交通状況の観測、災害対応などあらゆる場面で活躍するようになるとき、既存の有人航空機と同様、人びとの安全と安心を守るための仕組みが必要となります。具体的には、全ての航空機およびドローンが迅速かつ確実にお互いを認識できる必要があります。
そのためにFAA(米国連邦航空局)によって発表されたものが「リモートID」制度です。この制度により、ドローンメーカーやオペレーターだけでなく、誰にとっても透明性の高いドローンのオペレーションが可能になります。
今回は、FAAのWebサイトなどに公開されている「リモートID」制度の概要をまとめました。
リモートIDとは何か?
リモートID制度は、既存のドローン登録制度などとは異なり、オペレーターのもつ全てのドローンのID情報(詳細は以下)を付与することを必須としています。これにより、飛行中のドローンの飛行情報や位置情報などを、安全な空域管理のために地上から識別することができます。
リモートID情報は、ドローンが活用するほとんどの電波帯を用いて送信されます。業務用電波帯のみならず、Wi-FiやBluetoothなどでも送受信されるよう検討されています。そして、送信される情報には、UA ID(機器のシリアル番号またはセッションID)、フライト情報(GPS情報、高度、速度など)、コントロールステーションまたは離陸場所の位置、タイムスマーク、そして緊急事態の状況などが含まれます。
しかし、パイロットの個人情報やその他の情報は、パイロットの身元を保護するために、送信データには含まれません。これらの情報へのアクセスはFAAに限定され、必要に応じて権限のある法執行機関に提供されます。
リモートID制度はなぜ必要なのか?
リモートIDはFAA、その他行政機関、および私たち一般市民が、ドローンとその操縦場所または離着陸地点に関する情報を特定するのに役立つ重要なツールとなります。
道路や水上の乗り物にナンバープレートや所有者の情報が紐づいているのと同様に、当然空中の機体にも、機体の識別等のためデータを管理者に送信する方法が必要です。
リモートID制度はいつから適用されるのか?
2021年1月15日、FAAはリモートIDに関する新しい制度の最終版を公開しました。これらの制度は2021年4月21日から適用される予定です(当初は3月16日から適用される予定でしたが、3月10日にその延期が発表されていました)。
ドローンメーカーは、4月21日から18か月以内に、新制度への適合を確認する必要があります。オペレーターはさらに1年間をかけて、下記の3つの方法のいずれかで運用要件を満たす必要があります。
リモートID制度の仕組みとは?
リモートID制度では、FAAへの登録を必要とする全てのドローンが、リモートIDに関する情報を地上に送信できるようにすることが求められます。ドローンオペレーターは、以下3つのうち、どれか1つの方法を満たすことで、新しいリモートID制度のもとでドローンを飛行させることができます。
【1】リモートIDドローンの運用
1つ目は、リモートIDの送信機能を内蔵したドローンを飛ばすという方法です。ドローンから直接リモートID情報の送信を行います。離陸から着陸までの間、ドローンは以下の情報を送信します。
- ドローンID(UA ID)
- ドローンの位置と高度
- 速度
- コントロールステーションの位置と高度
- タイムマーク
- 緊急時の状況
【2】リモートIDモジュールを装着したドローンの運用
2つ目は、リモートIDモジュールを後付けで装着したドローンを運用するという方法です。これによってオペレーターは、リモートID機能を内蔵しないドローンを、今回の新しいリモートID制度に準拠させることができます。
ただしオペレーターは、リモートIDモジュールのシリアル番号を、機体の登録情報に追加する必要があります。また、リモートIDモジュールを使用して飛行する際には、目視内飛行(VLOS)に制限されます。離陸から着陸までの間、リモートIDモジュールは以下の情報を送信を行います。
- ドローンID(UA ID)
- ドローンの位置と高度
- 速度
- 離陸地点の位置と高度
- タイムマーク
【3】FAA公認エリア(FRIA:FAA-Recognized Identification Area)内での飛行
最後に、パイロットはリモートIDを搭載していないドローンを、FAAが認めた特定の指定地域内でオペレーションすることができます。地域に根ざした組織、初等・中等教育機関、その他FAAが認めた組織がFRIAの設立を申請することができます。FRIA内で活動するドローンは、目視内飛行(VLOS)に制限され、指定されたエリア内に留まらなければなりません。
その他、この3つに共通するリモートID制度の具体的な内容は以下の通りです。
- UAセルフテストをしなければなりません( リモートIDが機能していない場合、ドローンは離陸できません)
- リモートIDはオペレーターが無効にすることはできません。
- リモートIDは免許の不要な無線周波数帯(例:Wi-FiまたはBluetooth)を使用しなければなりません。
- リモートIDドローンおよびリモートIDモジュールは、送信を受信できる範囲が最大になるようにメーカーが設計する必要があります。
最後に
新しいリモートIDの制度は、ドローン・エアモビリティ前提社会の実現に向けた重要な一歩となります。有人機と無人機が空を共有する未来のためには、空域の状況を明確に把握する事が重要です。また、これらの規則は、ドローンやその他の新しいエアモビリティ技術に対する社会的な信頼を積み上げていくことに役立ちます。
このリモートID制度の最も重要な意義は、行政、専門家、メーカー、そして私たち一般市民が一体となって、安全で確実なドローンの運用を実現するため、適切な規則を作り上げられることを示している点にあります。
FAAは、2019年12月31日から60日間にわたって「リモートIDに関する提案型制度メイキング(NPRM)」のパブリックコメントを実施しました。これにより、業界の専門家、一般の人々からリモートIDに関する具体的な内容について、53,000件以上のコメントが寄せられました。最終案には、それら多くのコメントが反映されることとなりました。
このように様々なステークホルダーによって実現した制度メイキングの事例は、ドローン・エアモビリティ前提社会実現に向けて、大きな一歩だと考えます。
Written by Tavis Sartin
リモートIDに関するFAAの資料はこちら(英語)をご覧ください。