航空規則制定委員会の最終レポートにより、UASの実装が本格化
2022年3月10日、航空規則制定委員会(ARC)は、ドローンを含めた無人航空機(UAS)の目視外飛行(BVLOS)に関する最終レポートを発表し、今後の規則・規制の最終的な枠組みへ向けた提言を明確に示しました。
ARCの最終レポートは、調査手法、指針、全体設計、目的にはじまり、リスク管理、航空機とオペレーターの資格基準、環境設計、プライバシーや安全性への配慮、業界全体のニーズ等まで網羅的に詳述されています。また、レポートは、UAS技術の利点、近年の目覚しい技術的進歩、ドローンやUAS技術に対する資金の急激な増加についても取り上げています。
ARCは、提言の背後にある意図、根拠、手法を丁寧に説明し、政策立案者、事業者、一般市民が委員会の提言の全体像を理解するのに必要な情報を提供しています。
本記事では350ページを超えるレポートの要点をご紹介します。
- 基本方針
本レポートでは、「UAS技術の活用と業界の発展のためには、目視外飛行のための安全かつ実用的な標準化アプローチが不可欠である。」と述べています。また、重要な指標として安全性と社会的利益を掲げ、これらの分野に特化した2つの検証グループを設置しました。
安全性検証グループの主な目的は、産業の発展に伴い、社会が受けるリスクとリターンの比率を評価し、その比率をどのように測定するのが最適かを判断してARCの推奨に適用できる許容リスクレベル(ALR)を設定することでした。
人間の搭乗を前提とした一般航空の安全評価基準をUASに当てはめることは適切とは言えず、新たな安全基準の模索は困難を極めました。広範に及ぶ研究と調査の結果、委員会の見解を6つの項目に集約しました。
- 規制当局は、安全性を総合的に熟慮すべきである。
- まだデータが不足している領域が存在する。
- 規制当局は、個別のユースケースではなく、総合的なリスク統制を重視すべきである。
- 国民のリスク許容度は日々変化している。
- 規制の決定プロセスは合理性・透明性・一貫性がなければならない。
- UASの目視飛行ルールの国家航空システム(NAS)への統合は、空域ルールの変更を伴う可能性がある。
社会的利益検証グループは、「UASの目視外飛行の運用によって達成される可能性のある様々な社会的利益の正確な説明に必須」であるカテゴリーの作成に焦点を当て、社会が受容する利益を以下の6つに分類しました。
- 経済性
- 安全性
- 安全保障性
- 環境性
- 公衆衛生性
- 社会平等性
他の項目は自明かもしれませんが、「社会平等性」はこれまであまり取り上げられてこなかった項目であり、詳細は以下のように説明されています。
「UASの目視外飛行は、これまで社会的に不利な立場にあった地域やコミュニティを含む社会全般に新たな機会を与え、社会平等の一翼を担うツールとなりうる可能性がある。」
ARCは、この観点がUAS技術の重要な利点であり、これまで十分に議論されていなかったことを示唆しています。UASおよび関連技術は、低コストかつ高性能な機械や技術を社会に広く提供します。雇用を含めた様々な機会を、これまで不利な立場にあった多くのコミュニティーにも提供できる強力な産業です。
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2.運用ルール
ARCのレポートには、UAS業界に対する運用ルールの提言が多数含まれています。ARCは、これらの提言の目的は業界を 「安全性と多様性」を向上することであると述べています。また、提言の中には一般航空および有人航空機の運用に対するものも一部含まれていますが、従来のルールに大きな変更をきたさないことを前提としています。この背景としては、UASの運用のほとんどが、これまで航空機の運用が行われていなかった空域で行われることが挙げられます。
3.「検知による回避」と「適切距離」
ARCの提言の多くは、UASの飛行の前提として、「目視確認による回避」から「検知による回避」へ、「ウェルクリア(視界に何もない状態)」から「適切距離(他の飛行物と適切な距離を保った状態)」への移行を推奨しています。
「目視確認による回避」と「ウェルクリア」の概念は、FAAのRegulation 14 CFR Part 91.113 (b)の以下の文章を参考に議論されています。
「天候が許す限り、計器飛行方式か有視界飛行方式かにかかわらず、航空機を操縦する者は、他の航空機を目視確認による回避するために、警戒を怠らないこと。本節の規則により他の航空機に優先権がある場合、パイロットはその航空機に道を譲らなければならず、ウェルクリアでない限り、その上下/前方を通過してはならない。」
ARCが「目視確認による回避」よりも「検知による回避」の適用を奨励する理由は2つあります。
第一に、「目視確認による回避」の適用がUASの運用を大きく制限している点です。パイロットが搭乗していないUASは、他の手段(例えば、リモートパイロットや個々のリモートパイロットインコマンド(RPICS)と常に無線で連絡を取っている地上の目視確認補助者)で要件を満たす必要があります。ARCが指摘するように、この要件はUASの多くが搭載する優れたセンシング技術を考慮に入れておらず、UAS運行の大きな負担となっています。
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第二に、より重要な理由として安全性を挙げています。ARCは長年のデータと数多くの研究から、「運用密度の高いクラスE空域では『目視確認による回避』は衝突回避にあたり最も効果的な手段ではなく、より運用密度の低い空域ではパイロットは地形や他の障害物を避けることに集中するため、(他機を)視覚で確認する能力が損なわれる」という結論を導きました。
また、「目視確認による回避」の適用に関する問題を、「回避が最も必要とされるときに、パイロットは目視確認による回避することが難しい環境にあり、(このルールの適用は)結果的に衝突の可能性を上げてしまう」と結論付けています。
「ウェルクリア」ルールは、UASの実装にあたるもう1つの課題です。ARCは、「高度500フィート(152.4メートル)以下の空域では、既存の「ウェルクリア」の定義は安全を保証するものでなく、現実的でない」と指摘した上で、UASが搭載する技術をより適切に反映し、「実際の性能に基づく」アプローチをとることを推奨しています。
ARCは、最終的に、Regulation 14 CFR Part 91.113 (b)の文言を以下のように修正することを提言しています。
「天候が許す限り、計器飛行方式、有視界飛行方式、自動飛行方式にかかわらず、航空機を操縦する者は、他の航空機を検知による回避するために、警戒を怠らないこと。本節の規則により他の航空機に優先権がある場合、パイロットはその航空機に道を譲らなければならず、適切距離でない限り、その上下/前方を通過してはならない。」
4.認証基準
リスクとパフォーマンスに基づいた安全へのアプローチを重視するARCは、これまで航空業界で適用されてきた最大離陸重量ではなく、UASの運動エネルギー(K.E.)に基づく資格基準を推奨しています。運動エネルギーは質量と速度の2乗に比例します(K.E.=1/2MV2 )。
「運動エネルギーの適用は、衝突時のエネルギーを減らすための設計と運行制限の設定に関してメーカーに柔軟性を与える」 とARCは述べており、このルールの適用はUAS運用のもう一つの利点である多用途性をも反映しています。UASの運用では、装備を変更することによって積載重量(ペイロード)が変わることがあります。(例:運用途中で取り付けられたカメラなどを変更することによって最大離陸重量が変わる。)
運動エネルギーを指標とすることで、メーカーは、設計や補完的な技術(パラシュートやその他の落下防止装置など)の使用により、機体の最大運動エネルギーを低減することが可能となり、最大運動エネルギーを大幅に低減させながらペイロードを増加させることも可能になります。
以上の背景から、ARCは最大運動エネルギーを800,000 ft-lbs.(=1,084.654N・m)と設定し、UASをスモールUAS :〜25,000 ft-lbs.(=33.895 N・m) K.E. と ライトUAS :25,000 ft-lbs.〜800,000 ft-lbs. K.E. に区分することを推奨します。これらの区分には、運用中に発生する可能性のある運動エネルギーを反映した機体やシステムに対する個別の資格要件が設定される予定です。
※1 ft-lbs.=1.356 N・m
出典:UAS BVLOS ARC 最終レポート
参考までに、セスナ172のような従来の小型航空機の最大運動エネルギーは、ほとんどの場合800,000 ft-lbs を超えています。一方、DJI Mavic Proのような小型のUASを最高速度で飛行させると、88ft-lbsの最大運動エネルギーが発生します。これは、運動エネルギーで比較すると大谷翔平のホームランの約半分になり、ARCsの推奨安全基準では、ドローンが頭上を飛んでいる環境よりもエンゼルスの試合を見にいく方が危険な目に遭うことが多いと言えるでしょう。
5.国際整合性
ARCは立法府や規制当局が取り組むべき重要な課題として、「国際整合」を述べています。
UASの耐空性、認証、免許、運用要件に関するARCの提言が採用され、国の枠組みに統合されるにつれて、FAAが他国の航空局と調整し、足並みを揃える必要があると指摘しています。
ARCは、「国際的な整合は、機体の輸出入のハードルを下げるなど市場を活性化するだけでなく、規制当局がUASの統合にあたって専門知識と経験を共有し、安心安全かつ適切な導入の実現化を可能にする」と述べています。
本レポートを通じて、ARCは、UAS産業、ひいては規制の枠組みは、技術の進歩や新しいデータの入手により常に進化していることを認識しています。ARCの今回の提言は現在の状況を踏まえ、安全性を重視した産業の成長への革新的なアプローチだと言えます。ARC は、業界が継続的に成長し、すべての人にとって有益な産業を目指すために、今後の規制の枠組みは柔軟であるべきだと強調しています。
※1 写真の企業/商品は著者が要点を表す例として紹介したものであり、ARCのレポートとは関係がありません。
執筆:タビス・サーティン
翻訳:乾 恵梨奈