Drone Fund

en_US

Feature

鈴木真二 × 千葉功太郎 トークショーレポート @あいち航空ミュージアム

はじめに

世界レベルでの「ドローンのメッカ」といえば、読者の多くは、DJIが本社を置く深圳をイメージされるかもしれません。では、日本におけるドローンのメッカはどこにあたるでしょうか。「メッカとは何か」を定義すること自体が難しいですが、愛知県は、一つの重要な候補地となりうるかもしれません。その理由として、県営名古屋空港に隣接し、2017年に開館した「あいち航空ミュージアム」のウェブサイトは、日本の航空・宇宙産業における愛知県および中部地区の重要性を伝えています。

「愛知県を中心に、中部地区は、全国の航空機部品を5割以上生産するなど航空宇宙産業の集積が厚く、その中でも県営名古屋空港周辺地域は国産ジェット旅客機MRJの開発・生産拠点として、国内外からの注目が集まっています。あいち航空ミュージアムは、「航空機産業の情報発信」、「航空機産業をベースとした産業観光の強化」「次代の航空機産業を担う人材育成の推進」を目的とした、航空機をテーマとした新たなミュージアムです。自動車産業に次ぐ産業の柱として期待される航空機産業の歴史や航空機の仕組みなどを本ミュージアムを通して、より多くの方々が学び、体感していただくことを願っています。」(出典:あいち航空ミュージアム公式ウェブサイト)

今年で開館3周年となる同ミュージアムは、2020年11月29日より「開館3周年特別企画展」をオープンしました。題して、ドローン前提社会はすぐそこに「ドローンで変わる未来の生活」。2021年3月14日まで開催される長期展示企画です。イベントポスターは、DRONE FUNDが監修しました。そのような背景もあり、この度はそのオープンセレモニーの舞台に、同ミュージアム館長の鈴木真二氏とともに、DRONE FUND創業者/代表パートナーの千葉功太郎が登壇する機会をいただきました。以下では、鈴木館長と千葉のトークショーの模様をささやかながらお伝えしたいと思います。

【図】本イベントのポスター(出典:公式ホームページより抜粋)

ドローン前提社会とは何か

「ドローン前提社会」とは、「まるで水や空気のように、ドローンが私たちの暮らしや様々な産業を陰に日向に支えるような社会」を指す、DRONE FUNDのキーコンセプトです。この言葉のルーツは、千葉の学生時代、そしてその後の起業家時代の経験にあります。インターネットが一部の限られた人しか使えなかったおよそ30年前、「これからはインターネット前提社会が来る」とSFCの村井純教授(当時)から学んだ千葉は、その後、まさにインターネットが私たちの暮らしの隅々にまで浸透していく過程を目の当たりにしてきました。だからこそ私たちDRONE FUNDは、ドローン、エアモビリティ(空飛ぶクルマ)への期待と確信を込めて、「ドローン・エアモビリティ前提社会」という言葉をビジョンに掲げています。

【図】会場でオンライン登壇する鈴木館長と千葉(撮影:DRONE FUND)

新型コロナウイルス対策でオンライン登壇となったトークショーは、「ドローン前提社会が実現すると、私たちは何ができるようになるのか」という質問から幕を開けました。

(鈴木、以下敬称略)飛行機は、この100年間で本当に安全で便利になりましたが、とはいえ「飛ぶこと」の喜びを得ることができる方は限られています。千葉さんはパイロットのライセンスを既にお持ちですが、ドローンを飛ばすことができれば、誰もが空を飛ぶ経験をできますよね。そのことが一番重要なことかもしれません。

(千葉)鈴木先生、ありがとうございます。実は私はこのすぐ隣の県営名古屋空港をパイロット訓練の拠点にしていて、飛行機もすぐ近くに格納してあります。今日会場に来てくれている子どもたちが大人になったときには、移動手段・物流手段として、ドローンが当たり前のように使えるような世の中が来るだろうと思っています。

(鈴木)具体的には、たとえば身近なところでは、老人ホームにいる高齢者の代わりに、ドローンで家の様子を見たり、旅行をしたりすることができるかもしれません。また産業分野では、たとえば空だけでなく、下水管のような「地中」を飛んで、点検することができるドローンの開発、サービスも進んでいます。これから若い人にもたくさん考えていただきたいなと思います。

(千葉)ドローンファンドでは、イラストレーターのyamakitakumiさんと一緒に、オリジナルの高校生キャラクターである美空かなたちゃんが「もしもドローン前提社会で生きたら」というテーマで、たくさんのイラストを作ってきました。これはその一つです。

【図】ドローンの社会実装イメージの例(作成:DRONE FUND)

(千葉)家からの忘れ物のお届けや、犬の散歩、そして両手がふさがっている方向けの日傘など、日常の様々なところでドローンが使えるようになるんじゃないか、というイメージです。2022年に「レベル4」(有人地帯での自律飛行)が解禁される予定なので、これは2024年くらいを想定しています。

(鈴木)補足しますと、今のままではドローンが飛ぶことのリスクも大きいこともあり、安全性の観点から法・規制が厳しくあるというのが現状です。そこで「自由に使い、ビジネスも行えるよう、新しくルールを作っていこう」ということで官民での連携や協議会での検討が進んでいます。千葉さんがおっしゃった2022年というのは、そのマイルストーンの一つです。


【図】空の産業革命に向けたロードマップ2020(出典:以下)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/pdf/siryou14.pdf

 

中部地区での航空産業、そしてドローン産業について

次の話題は、愛知県や中部地区が日本の航空宇宙産業がどのような重要性を持ち、そして今日どのようなドローン・エアモビリティ関連スタートアップが愛知県で頭角を現しているのか、というテーマへと移っていきました。

(鈴木)私自身、岐阜県で生まれて、東大の航空工学の道に進むまでは名古屋で育ちました。航空分野を志すきっかけとなったのは、昭和27(1962)年8月30日に小牧空港(現、県営名古屋空港)での戦後初の国産旅客機YS-11の飛行をテレビのニュースで知ったことでした。このエリアには、歴史的にも航空宇宙の開発拠点が多く、有名なところではゼロ戦も名古屋で開発されて、岐阜で試験を行っています。中部地区は、日本の航空産業の歴史においても重要な意味があります。

(千葉)実際、愛知県にはドローンや、エアモビリティを開発するスタートアップ企業も多いですよね。DRONE FUNDの投資先では、株式会社スカイドライブ株式会社テラ・ラボ株式会社プロドローンの3社があります。

【図】愛知県に本社を置くDRONE FUND投資先スタートアップ(作成:DRONE FUND)

(千葉)今回の展示でも、プロドローンとテラ・ラボの2社にご協力いただいたと聞いています。プロドローンは高い技術力で、アームのついたドローンやヘリコプター型のドローンを開発しています。テラ・ラボは、大型の固定翼無人機を開発していて、国内最大級のドローン展示会「ジャパンドローン2020」では、最優秀賞を受賞しました。スカイドライブが開発するエアモビリティ(空飛ぶクルマ)は、この夏の有人試験飛行を成功させ、国内外での注目を集めています。サイエンス・フィクションではなく、本当にこのような世界が目の前まで迫っていることを、ぜひ知っていただきたいなと思います。

(司会)本当に夢があってワクワクします。ただ地上には道路がありますが、空中にはどうやってドローンやエアモビリティ(空飛ぶクルマ)の「道」を整備していくのでしょうか。

(鈴木)おっしゃるとおり、「道」は重要です。空中でたくさんのドローンが飛んだときに、お互いに衝突したり、事故を起こしてはいけませんから、そのため「運行管理システム」という管制システムの開発が行われています。私が所長を務める福島ロボットテストフィールドでは、そのシステムを検証する試験が日々行われています。

おわりに

「ドローン・エアモビリティ前提社会」の到来は、決して絵空事ではありません。あいち航空ミュージアム開館の5か月前、2017年6月に創業したDRONE FUNDは、その信念のもと、1号・2号ファンドでは40社以上のスタートアップに投資を行ってきました。今年は、ドローン・エアモビリティの社会実装をますます推進するべく、調達目標額100億円の3号ファンドの立ち上げを発表しています。

とはいえ、100年以上もの間、数多くの事故と犠牲、そして技術革新と安全対策の改善を重ねてきた航空業界から、ドローン・エアモビリティ業界が学ばなければならないことは、まだまだ非常に多いと言わざるを得ません。

そのような意味において、今回の企画展示は、既存の産業と新しい産業を「愛知県・中部地区」という共通点から俯瞰することができる、最高の環境となっているはず。ぜひお立ち寄りいただければ、DRONE FUNDとしても大変嬉しく思います(来館に際しては、コロナウイルス対策に関する自治体およびミュージアムの指針に必ずしたがってください)。

【参考】あいち航空ミュージアム・イベントスケジュール
https://aichi-mof.com/events/2020/11/3-2.html

さて本記事は、トークショーの最後、鈴木館長と千葉が会場の子どもたち向けて送ったメッセージの引用をもって結びとしたいと思います。

(鈴木)未来の空を切り開いて行くのは若い皆さんです。大きな夢をもって前に進んでください。そのヒントを得られる場所として、あいち航空ミュージアムが役に立てればと思います。

(千葉)今日お越しの親御さん、そして子どもたちには、「ぜひドローンレーサーをやってみてほしい」と伝えたいです。その先には将来、たとえばオフィスから世界中のドローンを操縦して世の中の役に立つような、そんな新しい「仕事」ができてくるはずです。ぜひ、これからのドローン・エアモビリティ前提社会を皆さんで一緒に創っていきましょう。ありがとうございました!

Edited by Yuta Tsukagoshi